第242回佐保カルチャー
触覚が繋ぐヒトの心
講 師 奈良女子大学 生活環境学部
情報衣環境学科 准教授 佐藤克成氏
日 時: 令和3年11月13日(土)午後2時~3時30分
会 場: 奈良市中部公民館 ホール (奈良市上三条町23-4)
参加費: 500円(学生は無料) 参加者: 40名
主催 奈良女子大学同窓会 佐保会奈良支部 共催 奈良女子大学 社会連携センター
後援 奈良女子大学 理系女性教育開発共同機構
新型コロナ感染症の影響で延期になっておりました第242回佐保カルチャー「触覚が繋ぐヒトの心」を11月13日
(土)に会場を奈良市中部公民館に変え、40名の方のご参加を頂き、無事開催することができました。
山形県山形市のリンゴ農家ご出身の佐藤先生の講演は、愛猫やお子様のお写真を見せて頂きながら、奈良の冷え込
みが山形以上で驚いたエピソードから、学生時代やその後の研究内容のご説明等、硬軟取り混ぜた自己紹介から始ま
りました。
素敵な自己紹介のお蔭で先生への親近感がグッと増しましたところで、本日の本題の「触覚とは何か」、「触覚の
情動性」にお話が移りました。
普段、取り立てて意識することのない触覚が、ものを握るなどの動作や冷・熱、寒・暑などからくる危険の回避など
に重要な役割を持つことに改めて気付くことができ、また、触れることによって得られる温かさや柔らかさ、重みな
どが人の心理や行動に影響を与えるという実験結果には本当に驚きました。
「人へのお願いごとは温かい飲み物を渡し、柔らかい椅子に座らせ、重いクリップボードに挟んで渡すのが良いです
よ」という先生のアドバイスに、皆さん大きく頷いておられました。
コロナ禍で一気に導入が進んだ遠隔コミュニケーションですが、映像が加わったことで音声のみだったころに比べ
その利便性が格段に上がりましたが、テレビ会議やテレビ電話での会話等が、実際のコミュニケーションに比べ存在
感が薄くなってしまうのは、人に対して情動的な効果をもたらす身体的な触覚「触れ合い」の伝達が無いからで、触
覚が音や映像と同じように伝達できれば、遠隔コミュニケーションでも、快・不快といった情動的な感情が創出でき、
実際の会話に更に近づくと解説頂き、大いに納得しました。ただ、触覚の伝達は、三原色に分解される光を伝達する
視覚の伝達に比べ、情報の分解、記録、伝達、再現が難しいとのご説明でした。
佐藤先生が現在取り組んでおられるのは、人間の知覚特性(錯覚)を使い、触覚の重要な要素である温冷感覚を再
現する技術の研究で、その技術がさらに発展すれば、いずれ現在の視聴覚メディアから情動性を伝える身体性メディ
アへのメディア革命が起きるだろうと伺い、遠くに住む人とも目の前にいるかのように会話を楽しめる日が来るかと
ワクワクしました。
最後に、学生の方々の触感共有技術への取り組みを二つご紹介いただきました。
一つは「体験の難しい専門家の高い技能(宮大工の使うヤリガンナを使う技能)を、バーチャルリアリティーと錯
覚を使って追体験する」という研究で、伝統技能等の技能伝承における後継者不足という問題を解決する糸口となる
ものです。
もう一つは甲南大学の方との共同研究で、「特殊な経験(月経痛の経験)を追体験することで相互理解を深める」
という研究です。バーチャルで、このように体験共有が行えれば、今求められている多様性の実現に大きく貢献する
に違いないと実感致しました。
難しい内容にも関わらず、時折笑いも起こり、皆さん和やかにお楽しみ頂けたご様子でした。