第221回佐保カルチャー報告 2016年5月14日(土)                   

  講演会「1939年 東京女高師の満州旅行」ー戦前のエリート女子学生が見たこと、感じたことー

 が開催されました。

            講師  :奈良女子大学文学部教授 内田忠賢

 

  奈良女子大学社会連携センターとの共催で実施され、23名の出席者がありました。DVDや、映画「ラストエンペラー」の一部、当時の学生のアルバムなどを駆使して行われた講演会は、とても面白く興味深いものでした。

 1939年7月31日、前年に国家総動員法が成立し時局が戦争へと向かう中、東京女高師(現お茶の水女子大学)の学生40名が20日間の満州旅行に出発しました。満州事変を経て日本による傀儡政権が樹立されたものの、国境付近では軍による衝突を繰り返していた政治的に不安定な満州で、修学旅行が行われていたという事実に大変驚かされました。

 彼女達の残した感想文と、存命の方達に行った内田先生のインタビューによると、概ね日本人の満州進出を肯定し、他民族を教化すべきという論調が多いものの、その論調に異を唱える箇所も散見できます。日本人の現地人に対する非常に横柄で傲慢な態度に疑問を抱き、満人の商人の態度の良さ、彼らの体格や顔つきの頼もしさに驚き、日本人は誤った優越感に自己陶酔してはいけないと警鐘をならしています。

 この大陸旅行は、当時の文部省、陸軍省の指導の下で実施され、感想文も彼らの目に触れたと思われますが、旅行を引率した地理学教授の飯本信之が、学生達に自由に書くようにと指示したため、彼女達は冷静に現状を眺め、当局に批判的な文面も載せています。この感想文「所感集」出版後に問題が起こらなかったことも驚くべきことです。

 なお、奈良女高師も、同年8月21日に満州旅行に出発しています。奈良女子大学校史関係史料の活字化事業としてネットで公開され、読み応えのある感想文を読むことができます。御興味のある方は御覧になって下さい。